当社技術顧問・吉田好孝氏の連載「映画の中の橋」が、橋梁通信2025年5月15日号より始まりました。
第1回は映画『ニューヨークの恋人』に登場するブルックリン橋。
橋梁技術者の視点から描かれる、映画の中の橋の魅力や歴史的背景が語られています。
映画好きも技術者も楽しめる内容をぜひご覧ください。


橋梁通信 2025年5月15日版

土木学会「インフラメンテナンス賞・マイスター賞」
やはり気になる「橋はどう描かれたか」

吉田好孝氏は今年2月、24年度の土木学会インフラメンテナンス賞・マイスター賞を受賞した。その発表で、経歴は次のように紹介された。
本州四国連絡橋公団でのハンガーロープ交換や薄層舗装の導入、東京湾横断道路での渦励振対策に関する研究に精力的に取り組み成果の展開を進めたほか、マレーシアでの技術指導など国内外での橋梁メンテナンスに多大な貢献をした。さらには、橋梁定期点検要領に基づく研修会の講師や論文発表、書籍出版を通じて、技術者の育成、技術の普及に大いに寄与した。

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マレーシアでの経験は著書「橋梁技術者が見たマレーシア」に詳述し、橋梁通信社から出版されている。

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仕事柄、橋が舞台として大きな役割を果たしている映画は注意深く観てきた。
ストーリーもさることながら、橋梁技術者だけに、舞台となる橋がどう描かれているのかが気になる。
そこで、様々な思いをつづって頂いた。「映画の中の橋」のタイトルで紹介する。

吉田好孝氏「映画の中の橋」
ブルックリン橋
①ニューヨークの恋人(上)

〈物語〉
ブルックリン橋のそばに時空の裂け目があったというタイムスリップもののラブ・ストーリーである。
1876年のニューヨーク、名門貴族の息子レオポルド(ヒュー・ジャックマン)公爵の部屋にある夜、怪しい男が忍び込み、考案中だったエレベーターの設計図面をカメラで撮影して逃走した。

男は建設工事中のブルックリン橋の塔に昇って逃げようとし、仮設足場から落ちそうになる。追いかけていたレオポルドは必死に男の片手をつかむが、男は「いいんだ、放してくれ」と意味ありげに叫んだ。

場面は一転して、現代のニューヨーク。広告会社で働くケイト(メグ・ライアン)は、礼儀正しい若者と出会った。上品な服装で、きれいなクィーンズイングリッシュを話した。
やがて2人はひかれ合つていくがー。

米国長大吊橋の原点
完成ヘ 苦難の道のり

レオポルドらが転落した仮設足場は、ブルックリン橋のそばにセットとして作られた。セットであっても、当時の橋の工事を参考に造られたのであろうから興味深い場面だ。

このブルックリン橋には、完成までに苦難の道のりがあった。
建設を担ったドイツ移民のジョン・アウグストゥス・ローブリングは、事故で亡くなってしまう。
後を継いだ息子のワシントン・ローブリングもケーソン工事の事故で傷つき、ベッドから離れられなくなる。

彼は工事現場が見える病室から、双眼鏡で毎日工事の進捗状況を観察し、指示が必要とあれば妻のエミリーに命じて、彼女がその内容を現場に伝えるという努力の末に橋を完成させた。
エミリーは夫のために一生懸命に橋梁工事を勉強し、見事にその大役を果たしたのである。
ブルックリン橋の完成以降、アメリカは次々と長大な吊橋を建設していく。ブルックリン橋は19世紀後半から20世紀前半にかけて、アメリカの華やかな長大吊橋の設計・建設技術の原点とも言うべき存在であった。